REASON WHY FILM

フィルムで撮影する理由

お客様にとって何よりも一番大切なことは、『今、この瞬間の自分たちの姿を幸せに写してもらうこと』だと、改めて気づくことができました。

カメラマンを始めて数年経った2018年ごろ、とあるお客様から「たくさんじゃなくていいから、とっておきの良い写真を撮って欲しい」という趣旨のお言葉を頂きました。

当時の僕は、自分が撮る写真への自信のなさをカバーするため、たくさん撮って差し上げることが良いことだと思っていた節があり、実際それでお客様にも喜んで頂けていたこともあり、その時、そのお客様のお言葉の真意に気づくことはできませんでした。

だいたい時を同じくして、断捨離やミニマリズムという考えと出会い、生活の中で持ち物の取捨選択を繰り返していく中で、自分の生活、人生に必要なものとは何かについて断続的に考えるようになっていきました。

写真を撮ることを通じて、お客さんも僕も嬉しい楽しいを目指していて、実現できている部分も広がってきたけれど、どこかちょっとズレてきているような感覚を覚えるようになっていました。

撮影させてもらえる喜び、出来上がった写真を喜んでくださるお客様の存在、撮らせてもらった笑顔の写真の数々。

どれをとっても、僕にとって大切なものに変わりはないのですが、ズレの正体は、仕事の方向性や目的地を再設定する必要があると僕に忠告してくれていたのだと思います。

どうすれば「より嬉しい、より楽しい」に近づけられるか、日々頭の中で考え続けました。
考えすぎて自己中心気味の僕でしたが、改めて、お客様の視点に立って考えてみました。

せっかくの写真撮影、同じ金額なら、いろんなバリエーションでたくさん撮ってもらうことはメリットに違いないけど、お客様にとって何よりも一番大切なことは、『今、この瞬間の自分たちの姿を幸せに写してもらうこと』だと、改めて気づくことができました。

そこでようやく、数年前のお客様の言葉の真意がわかった気がしました。
そして、ズレの修正方法になりうるかもしれないと考え抜いて出た答えが、『フィルムで撮る』ということでした。

デジタルで撮影の仕事をしつつも、同時に細々とフィルムでも写真を撮り続けていました。
少年時代、気付けば手にしていたのは写ルンです。カメラマンを目指すきっかけになったカメラもフィルムカメラ。昭和終盤に生まれた僕の中には「写真といえばフィルム」、そういう思いは趣味で写真を始めた頃からずっとありました。

そして、これまでに自分が撮ってきた写真を振り返って、より自分らしさが写っていると感じたのは、フィルムで撮った写真が多かった。

そして何よりも、フィルムカメラのファインダー越しに覗く世界が、僕にはキラキラワクワクして見えるのです。

どうにかしてフィルムで写真をやっていきたいと思い立ち、数年前から存じ上げていた憧れの現役フィルムカメラマンに写真を撮ってもらうことにしました。

全国を巡る「いとう写真館」伊東さん。
大阪「mogu camera」小倉さん。
京都「STU:L」竹内さん。(50音順)

結論。
撮影してもらって、写真を撮ってもらうことはこんなにも楽しいものだったんだと、衝撃を受けました。恥ずかしながら、撮ることの楽しさは知っていましたが、撮られることの楽しさに長らく気付けずにいました。

写真を撮ってもらうことが楽しいと感じた理由。
それは、3名の写真家がそれぞれ生み出す写真空間(僕の造語)が、柔らかい光に満ちた、心と身体を温めてくれるような心地よい陽だまりみたいなひとときだったから。

そして、文字通り三者三様、伊東さん・小倉さん・竹内さんが素晴らしい写真家かつ魅力あふれる人物で、お三方共通して、かっこいい!笑顔が素敵!心から写真を楽しんでる!

僕は思いました。お三方とも、本当に人生を楽しんでいる!

僕もそれなりに楽しく生活させてもらってはいるけど、写真を楽しんでるか?そして、人生を楽しんでいるか?

自問自答をする良い機会となりました。

今まで以上に写真を楽しむために、人生をより楽しむためには、フィルムで撮ること。やっぱりこれしかない、これに賭けよう。そう思いました。

新しい相棒のフィルムカメラにも恵まれ、モノクロフィルムでの撮影会を実施したり、暗室に籠りフィルム現像や印画紙プリントを試行錯誤したり、新しい一歩を踏み出した2023年でした。

フィルムで撮影するメリットって? 自分目線で考えてみました。

◆撮影できる枚数が限られているので、撮影者と被写体の撮影への集中力が増す傾向がある。そのため、良い表情も生まれやすく、写真の質の向上が見込める。

◆枚数が限られているため、撮影時間が短く早く終えられる傾向にある。被写体への負担がかなり少なく済むことはとても良いこと。

◆フィルムは化学製品ゆえ、撮影者と被写体とのケミストリー同様、文字通り、化学反応で写真が出来上がる。

◆その場ですぐに写真を見られないため、被写体は出来上がる写真を待つ時間を楽しむことができる。

◆写真といえばフィルムが当たり前だった当時の人たちと同じ気持ちを共有でき、写真の歴史200年を体感できる。

◆写真の出来上がりを、想像する楽しみがある。

まだまだ他にもあると思いますが、

光がそのまま真空パックされたような描写で、どことなく柔らかい写りで、言葉にうまく表せられないけど、それがなんだか良い感じで好きです。

もちろん、デメリットもあります。

◆その場で仕上がりを確認することが難しい。

◆デジタルに比べて、コストや手間がかかる。

◆デジタルカメラの確実性、即時性、正確性には敵わない部分がある。

◆フィルム及び現像用品は化学製品であるため、製造ミスや品質のバラツキなどトラブルが稀に起こる可能性がある。

◆デジタルで利用する際には、データ化する必要がある。

デジタルの利便性は、改めて言わなくてもお分かりになられるかと思います。

それでもフィルムで撮りたいと思う理由は・・・

2018年6月、初めてモノクロフィルムの現像を自分の手でやりました。

その当時、薬液の温度管理や手順などかなりアバウトだったため、出来上がったネガはざらつき、褒められたものではありませんでした。

だけど、そのネガには、今は亡きばあちゃんの優しい表情がしっかり写っています。

デジタルカメラの確実性、利便性、即時性など多くの恩恵を享受しながらも、僕がフィルムで撮り続けたい理由。

それは、「今、ここに」という一瞬にとどまる機会を与えてくれるから。その瞬間、生(せい)を感じさせてくれるから。

明確な理由はまだ自分でも分かりませんが、きっとそういうことなのかもしれません。

「どうか写っていてください」と心から祈る、そんな気持ち。

フィルム撮影の長所と短所、それは、撮影してから写真を見られるまでに時間がかかること。

被写体は一体どんな風に撮影されたのか、どんな風に写っているのかは、写真が手元に届くまで分からない。

撮影してもらった後は「写真が出来上がる楽しみ」という「お土産」を持ち帰るような感覚でしょうか。

一方、撮影者はファインダー越しにシャッターボタンを押した瞬間を見ているので、どのような感じで写っているかをある程度は予想できているけど、実際はフィルムを現像するまで見ることはできない。

撮影者としては、きっと間違いなく素敵な瞬間を写せたと思うけれど、果たして本当に写ってくれているだろうかという期待と不安の狭間で緊張しています。

だからこそ、「どうか写っていてください」と心から祈る、そんな気持ちです。



こんなフィルム写真体験、楽しそうだと思いませんか?



花と手紙 フカヤケンイチ 2024年5月31日

モノクロフィルムで撮影した祖母の姿