心を動かせるのはただひとつ心だと。
今から30年前に出版された福山雅治さんのライブ写真集「LEICA・LIVE・LIFE. 僕のライカと福山雅治」。
撮影は、僕の好きな写真家であるハービー・山口さん。
ミュージシャンとフォトグラファー、お互いが信頼し合い、敬い、心身を委ね合うことで生まれた、若さとエネルギーと友情が詰まった爽やかで疾走感ある素晴らしい作品です。
ここに僕の感想を連ねるよりも、巻末に記された二人のお互いへのメッセージをそのまま引用させてもらいます。
機会があれば、ぜひ手に取って眺めてみてください。
◎
福山君へ
よく心を開いてくれました。最初の打ち合わせで、「ハービーさんが撮ってくれるなら、この写真集を作りましょうよ」
その君の一言で僕は全力で君の姿を追っていこうと心に決めました。
そして、君がそう言ってくれるのだから、この仕事は成功すると僕にはわかっていました。
こうした全く演出のないドキュメンタリーは非情な程正直で、どんなにごまかそうとしても君と僕の間柄が写真ににじみ出てしまうんです。
君は後半よく僕に言いました。「ハービー・山口っていう写真家が何冊かの写真集を残すでしょ、
そのうちの一冊にたまたま福山雅治が写ってるっていう、あくまでも写真家本位の作品にしてくれたら嬉しいですね。
だからたとえ1/3の写真に僕が写ってなくたってかまわないんですよ」
君の心の持ち様に感謝してます。この写真集、そして一枚一枚の写真は僕たち、そしてファンの人達の宝物です。
また会う日まで、君はもっと大きなアーティストに、僕はもっと人の心を写せる写真家になる様努力しなければいけません。
その時は、また一緒に街に出て楽しく青春しようじゃないですか。独り占めしたら許さんよ、おい君い!!
Herbie Yamaguchi April 1994 TOKYO
to Herbie Yamaguchi
やっと出来上がりましたね。うれしいです。こうして写真を見ているとひとつひとつの景色やその時の感情が鮮明に蘇ってきます。
福山雅治という被写体の瞬間のすべてに、ハービー・山口という写真家の心も写っています。
音楽、映画、絵画、写真。
表現と呼ばれるものに共通することだと思うんですが、良い作品というものには必ず見る人、聞く人の心を動かす何かがありますよね?
その何かというのは、僕は心だと思うんです。心を動かせるのはただひとつ心だと。
とはいうものの、詩や文章を書いていつも「心とひと口にいうけれど、そいつはいったい何処にあるんだ?」と自問自答ばかりしています。
僕の身体の中には、心臓はあるけど、心という場所はない。胸の奥の深い深いところにあるような気がするだけ。
そいつは僕を支配している大切なものなのに・・・。
きっと僕もハービーさんも、その心という大切なもの、形のないものを写真や音楽にして形あるものとして確かめたいんじゃないでしょうか。
今回ハービーさんは福山雅治という被写体を使い、僕はハービー・山口という写真家を使い、本という作品で心を形にしたような気がします。
僕らが共有した時間を、ありのままに、正直に写してくれたおかげで、とても良い作品ができたと思っています。
これからもこの永遠のテーマに取り組んでいきましょう。この本に参加してくれたお客さんたち、街の人たち、スタッフの人たち、
そして我らが青春野郎ハービー・山口に感謝の気持ちでいっぱいです。それじゃあまた逢いましょう、必ず。
from Masaharu Fukuyama
引用 ハービー・山口「LEICA・LIVE・LIFE. 僕のライカと福山雅治」 1994 株式会社ソニー・マガジンズ
◆
きっと、優れた表現者と呼ばれる人々は、表現の手段の違いを超えて、まずは、誰もが理解できる易しい表現で自分の思いや考えを言葉にできる人のことを言うのでしょうね。だからこそ、表現される創作物に生命力が宿るのでしょう。
ちなみに、「LEICA・LIVE・LIFE.」の数年後に発表されたハービー・山口さんの傑作「代官山17番地」で、このメッセージでの約束通り、二人の同潤会アパートでのフォトセッションが3点掲載されています。
「花と手紙だより」2024年6月28日版